コールドデックっていう用語の話とかー。

ギャンブルのイカサマで使う、あらかじめカードの並びを仕込んでおいたデックのことを「コールドデック」と呼びますが、そのあたりの記述がマーリン本の2部にあります。

マーリン本の2部は全体がギャンブルを模したトリックの解説になっていて、「ギャンブルで使われる秘密を暴露する」というプレゼンテーションで行うのですが、肝心の種そのものは明かさないという、全方位に配慮した内容になっています。

具体的に言うと、「実は相方が潜んでいて暗号を送っているんですよ」と言いつつも、実際にコードを送る方法は一切教えない、といった感じです。観客は秘密を知って満足するものの、実際には誰でも知っているような情報しか教えておらず、どの情報を開示してどこを秘匿するかという線引きをしっかり行ってショーに反映させているんですよね。

ギャンブリング系のトリックは観ていて飽きることが多かったのですが、最初にこのマーリン本2部を読んでいたら、私のギャンブリングへの評価はだいぶ変わっていただろうなと思います。

ゆき
ゆき

とりあえず載せておきますので、読んでみてけろ。

コールド・デックの物語 (The Story of the Cold Deck)

「コールド・デック (Cold Deck)」 とは、 ゲームの最中に 密かにすり替えて使用する、あらかじめ特定の配列に仕込まれたデックのことです。

この名称は、 ゲームで 使われているデックが プレイヤーたちの手によって 熱を帯びているのに対し、準備された仕込みデックが冷たい(Cold)ことに由来します。すり替える際、 手に触れた瞬間の 「冷たさ」 でイカサマに 感づかれる危険が あるため、コールド・デックは 使用直前に手で揉み込むか、体温が伝わるポケットの中に保管して温めておかなければなりません。

コールド・デックは、全プレイヤーに破格の勝負手が配られ、なおかつ イカサマ師自身にはそれらをわずかに上回る最強のハンドが渡るようセットされます。この仕掛けを成立させるには、観客を装った共犯者の存在が欠かせません。「潤沢な資金を持つプレイヤー」 の手元へ勝負手が渡るよう、 カードの配列を組む必要があるからです。 破産寸前のプレイヤーにどれほど素晴らしい手を配ったところで、 巻き上げられる資金がなければ意味がないのです。

イカサマ師はゲームを進めながら、誰が最も資金に余裕があるか(誰をターゲットにして巻き上げるか)を冷徹に見極めます。

そしてプレイヤーたちの着席位置を観察している共犯者へサインを送り、コールド・デックのセットアップを指示します。 共犯者は 人目のつかない場所へ引き下がり、手をランナップした上でデックを温め、すり替えの準備を整えます。

コールド・デックの投入は、 必ずイカサマ師が カードをディールする番で行わなければなりません。 シャッフルの直前、あるいはカットの直後というタイミングが選ばれます。 当然のことながら、使用するコールド・デックはゲームで使われているデックとまったく同じ柄・状態のものでなければなりません。

これが最も巧妙な方法でしょう。

共犯者がウェイターとして 店に潜入している場合の手法です。 共犯者から準備完了のサインを受け取ったイカサマ師は、自分がカードを配る 2回ほど前の巡目で飲み物を注文します。

ウェイターはトレイの上に飲み物を載せ、トレイの下に指でコールド・デックを保持した状態で戻ってきます。 イカサマ師がシャッフルを終え、カットを受け、カードを取り上げて配ろうとするまさにその瞬間に合わせて飲み物を運び、 動作を割り込ませるのです。

イカサマ師は、カット済みのデックのエンドがテーブルの縁からわずかに突き出るように置いておきます。ウェイターは飲み物を差し出すと同時に、トレイを重ねるようにして突き出た使用中のデックをトレイ下へ回収し、 代わりに隠しておいたコールド・デックをテーブル上へ滑り込ませます。イカサマ師はこの操作中、怪しまれないよう両手をずっと プレイヤーたちの視界内に置いたままにします。 そして、テーブルに置かれたコールド・デックを取り上げて配り始めるのです。

また、機械的なデバイスを用いる方法も数多く存在します。 より自然なやり方としては、ゲームの「バンカー」を共犯者にしておく方法が挙げられます。

ゲーム中、プレイヤーが新しいデックへの交換を要求することはよくあります。 共犯者は用意したコールド・デックを密かにバンカーへ渡し、 バンカーはそれを予備のデック群の中に混ぜておきます。そしてイカサマ師が「新しいデックをくれ」と要求した際、バンカーはそのコールド・デックを手渡すのです。 イカサマ師はフォールス・シャッフルを行い、カットをスリップしてカードを配ります。

さらに巧妙な仕掛けとして、 「カモ (身ぐるみを剥ぐ対象のプレイヤー)」 を言葉巧みに取り込んで仲間に引き入れ、自分たちの共犯者の1人 (カモは彼が自分の味方だと信じ込んでいます) をハメる 「偽りの共犯関係」 を組むという 手法があります。

このやり方であれば、 カモ自身もイカサマに加担して罪の片棒を担ぐ格好になるため、あとから警察や周囲に泣きつくこともできず、発覚するリスクが極めて低くなります。

イカサマ師はカモをすっかり信用させて懐に入り、 「あのプレイヤー (実は共犯者)をカモにして一儲けしよう」と話を持ちかけます。

そしてコールド・デックをゲームに投入します。 ドローのあと、 共犯者はカモよりもさらに強いハンドを手にし、勝負に勝って場の資金をすべて総取りします。

イカサマ師はカモに対し、「すまない、カードを配る位置を間違えてしまった」と言い訳をし、 自分自身も その共犯者に金を巻き上げられたフリをすることで、 言い訳の真実味を補強するのです。 もちろんそのあと、イカサマ師と共犯者は陰で勝ち分を山分けします。

上記のプロセスをすべて「イカサマの手法暴露」として実演してみせれば、 観客の強い興味を惹きつけ、 カードマジック における 不正の裏側を 知り尽くした エキスパートとして、あなたへ絶大な敬意と感嘆を抱かせるはずです。

実のところ、仮に観客がこれらの知識を身につけた状態で後日 怪しいゲームに 参加したとしても、 実際のイカサマの瞬間を察知・見破ることはまず不可能ですから、野放しのイカサマ師たちに実害が及ぶ心配もありません。

私はヨーロッパで 「グリーク[Greek]」 と呼ばれるプロのイカサマ師たちに、深い敬意を抱いています。 彼らの知恵で 生計を立てる生き方 そのものに感心しているわけではなく、実戦で発揮される驚異的な臨機応変さに感服しているのです。

これまでに解説してきたあらゆる技法を 「誰にも気づかれず完璧にこなす能力」 それ自体には、実は大した意味はありません。マジックの世界と同様、すべては 「プレゼンテーション」——つまり演技の魅せ方次第だからです。そして何より、イカサマ師には揺るぎない「鋼の心臓」が不可欠となります。

私の記憶に残る興味深い出来事として、あるイカサマ師が「不当に得た利益」に対する自らの罪悪感を和らげるために語った、見事な主張をご紹介しましょう。人間の本質を知り尽くしたそのギャンブラーは、次のように語りました。

「人間なんてものは、誰もが根っからのズルをする生き物なんだよ。

例えば、高額な金の動くゲームで、ごく普通の人間が滅多にない強いハンドを手に入れて、あり金のすべてを賭けようとしていたとする。 そのとき偶然にも、ベットの途中で私のハンドが見えてしまい、 私の方が勝ち手だと気づいたとしよう。 彼はそれでも当初の予定通り 金を賭け続けると 思うかね? それとも、 急に賭けを 引っ込めて、自分の手札を捨て札へ放り投げるだろうか?

ほぼ間違いなく、賭けるのをやめるはずだ。つまり人間というものは、チャンスさえあればいくらでもずる賢く立ち回るのさ。私は自分の技術を使って、そのチャンスを自ら生み出しているに過ぎないんだよ」

この主張が極めて論理的であることは、認めざるを得ないでしょう。

私自身、これまでに恐ろしく熟練した 鋭いギャンブラーたちに出会ったことがあります。 彼らはカードを配る際の 「音」 を聞いただけで、 セカンド・ディールや ボトム・ディールが行われた瞬間を見抜くことができました。

もちろん、 配る側が十分に練習を重ねて熟練すれば、 この音の違いすら克服し、本物のトップカードを配る音と セカンドやボトムを配る音を 完全に一致させることができると、私は確信しています。

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(分冊版も作っていますが、amazonの仕様変更で刊行が来週以降になります。物理本は今、合本版と第1部分冊版だけ物理本がでてます)

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