Everywhere and Nowhereをちょっと調べてみたメモ

まえおき

最近、ヘルダー・ギマレスの「Everywhere and Nowhere」を読んで、「あ、こんなアプローチもあるのか!」とちょっと感心しました。

ただ、原案はデュプリケイトを使う必要があって、正直ちょっと手間。だからなのか、実際に演じている人はあまり見かけません。
自分で演じて撮った事があるのですが(松田道弘氏の改案)、後から見返したらすごく不思議に見えていて、「これはアリだな」と思いました。
さらに気になって、手元にあったダウンズの本を読み返してみたら、これがまた面白いことが色々と書いてあるんです。
マジシャンの間でよく言われる『Everywhere and Nowhere』の印象は、
  • チェンジを多用するので難しい
  • デュプリケイトを使う
といったところ。
でも、ダウンズの本ではちょっと違う見方がされていて、
  • 本質は「おしゃべり」にあること
  • サロン向けのトリックであること(クロースアップが一般的じゃなかった時代なので、ハンドリングもクロース向けではない)
といった点が強調されています。
こうやって背景や演じ方の方向性を知った上で、実際の手法やストーリーラインを追いかけていくと、このトリックの面白さや奥行きが見えてきて、惹かれていくなと。
ちなみに、ダウンズ氏は「Everywhere and Nowhere」とよく似た現象を持ちながら、演出や手法が異なる別のトリックとして「General Card」という作品も紹介しています。
今回はそちらには触れませんが、もし興味があれば「Everywhere and Nowhere」と「General Card」の違いを調べてみると、新しい発見があるかもしれません。
この2トリックはたまに、何が違うのか論争が起こっていますが、初出の時点で明確に答えが示されているので、論争になるのがそもそもおかしいとは思いますが。

Everywhere and Nowhereの現象

「Everywhere and Nowhere(どこにでもあって、どこにもない)」は、カードマジックのクラシックな作品のひとつです。流れをざっくり説明すると、こんな感じになります。

  1. 演者は一組のトランプを使い、観客に1枚カードを選んで覚えてもらい、デックに戻してもらいます。

  2. 「ちょっとした方法を使えば、すぐにカードを当てられるんですよ」と言って1枚取り出すのですが……外れ。テーブルに置いておきます。

  3. 気を取り直して2枚目を取り出すも、また外れ。

  4. 3枚目も外れ。結局、3枚とも間違ったカードがテーブルに並びます。

  5. 「これではさすがに申し訳ないので、違うやり方を試しましょう」と言って、観客にこの“外れカード”3枚から1枚を選んでもらいます。すると――そのカードが観客の選んだカードに変わってしまうのです。

  6. 驚いている観客に「では残りの2枚のどちらか…」と選んでもらうと、そのカードも観客のカードに変化。

  7. 最後に残った1枚も同じように観客のカードに変わります。つまり、テーブルの3枚すべてが観客のカードになってしまうのです。

  8. ここで観客は当然「同じカードが何枚もあるんじゃないの?」と疑いを持ちます。ところが――最後には3枚とも元の“外れカード”に戻ってしまう。

  9. さらにデックを広げて調べても、観客のカードはどこにも見つからない。つまりタイトル通り、“どこにでもあるし、どこにもない”状態で幕を閉じるのです。

ちょっと調べたEverywhere and Nowhereのメモ

The Art of Magic

Johann Nepomuk Hofzinser — Everywhere and Nowhere

  • ダウンズによるホフジンザー手順の解説。
  • 台詞も一言一句そのまま収録との触れ込み。
  • デュプリケイト2枚使用。
  • 演出:数学的に当たる確率を高めると言いながら3度失敗。
    → 「計算ミス」を口実に、観客(特に女性)の視線の力を借りて外れカードが変化していく。

T. Nelson Downs — Everywhere and Nowhere: New Method

  • 演出はホフジンザー版と同じ。
  • ブラックアート使用。
  • デックを40枚程度に減らすとやりやすいと注意あり。
  • ヨーロッパでは「ピケ・デック」という32枚デックが普及しており、ホフジンザーもそれを使用していたので、ダウンズはそれ知らずに書いてる可能性がある。
  • 準備物に「メモとペン」とあるが、実際には使われていない。

T. Nelson Downs — The General Card

  • Everywhere and Nowhere と似た現象。
  • ただし演出・手法が異なり、便宜的にこのタイトルを付けて紹介されている。
ゆき
ゆき

あそびの冒険1巻には『Art of Magic』に載っている「Everywhere and Nowhere」と「The General Card」の訳が載ってます。NEW METHODはないけど

Hofzinser’s Card Conjuring

Johann Nepomuk Hofzinser — Everywhere and Nowhere (First Method)

  • デュプリケイト2枚使用。
  • ダウンズの『The Art of Magic』にある解説とほぼ同じ構成。
  • 違いは「間違ったカードを出す」部分に特に理由づけがされておらず、説明的なストーリーは付けられていない点。
  • 後半は「女性の視線には魔力がある」という流れで、外れカードが変化していく。

Johann Nepomuk Hofzinser — Everywhere and Nowhere (Second Method)

  • デバイデッド・カード使用。
  • 演出:序盤は観客に質問を重ね、心理学的に候補を絞り込んでいく流れ。
  • 後半はやはり「女性の視線には魔力がある」としてカードが変化する。

Johann Nepomuk Hofzinser — Everywhere and Nowhere (Third Method)

  • デュプリケイト + デバイデッド使用。
  • 演出:序盤は質問をして心理学的にカードを絞り込み、後半では選ばれたカードがデックの中を縦横無尽に移動しているかのように見せる。
ゆき
ゆき

ダニ・ダオルティスの「The Mirage」を想像してもらえれば、それが一番近いと思う

Greater Magic

Paul Rosini — Everywhere and Nowhere

  • デュプリケイト2枚使用。
  • 特筆すべき変更点なし。

The Royal Road to Card Magic

不明 — Everywhere and Nowhere

  • デュプリケイト2枚使用。
  • グラスをカード立てとして使う。
  • 『カードマジック事典』でホフジンザー版として紹介されているのはこの手順。

Expert Card Technique

不明 — Everywhere and Nowhere

  • デュプリケイト2枚使用。
  • 小道具:ウサギの足のお守り。
  • 外れのカードとして、ハートA、ダイヤA、クラブAを使う。
  • 失敗を繰り返した後、「ウサギの足の力」で催眠術のようにカードを観客のカードに変えて見せる。

Sonata

Juan Tamariz — The Hypnotic Power of the Jokers

  • スライト主体の手順。
  • Roberto Giobbi が絶賛した作品。
  • 現象は「General Card」に近く、本流の Everywhere and Nowhere とはやや異なる。

Card College Vol.4

Roberto Giobbi — Everywhere and Nowhere

  • デュプリケイト使用。
  • 小道具:塩瓶。
  • 「指を鳴らす → 上がる/下がる → 失敗」という演出。
  • ホフジンザー・トップチェンジを「塩を払う動き」にカモフラージュしている。

Utopia

Dani DaOrtiz — I.E.N

  • レギュラーデックのみ使用。
  • 不思議さはデュプリケイトを使ったときの効果に迫る。
  • 後半は「General Card」に展開。
  • 演出テーマ:「恋をすると、どこにいてもその人に見える」。

Secret Language Vol.1

Helder Guimarães — Unexplained Understandable

  • デュプリケイト3枚使用。ワイングラスを併用。
  • これまでのデュプリケイトの使い方と大きく異なる発想。
  • 演出は非常に哲学的で、表現しづらい独特の世界観を持つ。

Ultimate Secrets of Card Magic

Fred Kaps — The Three Jokers

  • ジョーカーとワイングラスを使用。
  • トップチェンジに依存していた部分を、観客に凝視されても通用する方法に置き換えた。
  • 演出:選んだカードをトップやボトムから自在に取り出すと宣言 → 失敗 → 外れカードが観客のカードに変化する。

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