サーストンの3原則よりも覚えておくべき5つのこと

ゆき
ゆき

note用に書いた真面目な文章ですよん

日本人マジシャンの間では、「サーストンの3原則」と呼ばれる、マジックを演じる上での有名な心構えがあります。

  1. マジックを演じる前に、現象を説明してはならない

  2. 同じマジックを2度繰り返して見せてはならない

  3. 種明かしをしてはならない

日本のマジック界の常識として広く知られているこの原則ですが、実はサーストンの言葉ではありません。歴史を紐解くと、TAMC(東京アマチュアマジシャンズクラブ)の坂本種芳氏が会報にこのタイトルで紹介したことが発端とされています。さらに古い時代に目を向けると、ホフマンの著書の中にすでに同様の教えが見出せます。

しかし、現代の日本で定着している「サーストンの3原則」は、あまりにも重要な部分が「削ぎ落とされすぎて」います。実は、ホフマンの記述もサーストン3原則のような単純なものではなく、より実践的な内容でした。

これらをさらに研ぎ澄まし、現代の演者に必要な「5つのルール」として明確に定義しているのが、名著『ロイヤル・ロード・トゥ・カードマジック』の序文です。そこには、以下のように記されています。

  1. 「現象を成立させるための準備動作がすべて完了するまでは、その現象の内容を観客に告げてはなりません」

  2. 「同じ現象を別の方法で演じられないのであれば、そのトリックを繰り返してはなりません」

  3. 「トリックの秘密を明かしてはなりません」

  4. 「ミスディレクションを活用しなければなりません」

  5. 「セリフはあらかじめ決めておくべきです」

「サーストンの3原則」と比べると、その違いは一目瞭然です。
1つ目のルール。単に「先に言うな」ではなく、「仕込みが完全に終わるまでは口にするな」ということ言っています。また2つ目も、単に「2度やるな」ではなく、「別の手法がないなら繰り返すな」という教えです。

私は、マジックを本気で人に演じようとしている人(特に初学者)にこそ、サーストンの3原則ではなく、こちらの「5つのルール」を覚えてもらうべきだと考えています。

この記事の最後に、この教えが書かれた『ロイヤル・ロード・トゥ・カードマジック』の序文を掲載しておきますので、ぜひじっくりと読み込んでみてください。

日本語版の書籍を刊行しているので、よければそれも。

The Royal Road to Card Magic 日本語版 第1巻(Amazon)

The Royal Road to Card Magic 序文

何年か前のある日、イギリスを代表する偉大な奇術師 David Devant のもとを、カードのスライト・オブ・ハンドを学び始めたばかりの若者が訪ねてきました。

「Devant さん、私はカードトリックを300知っています。あなたはいくつご存じですか。」

そう問われた Devant は、訝しげに若者を一瞥し、皮肉を込めてこう答えました。

「そうですね……8つくらいでしょうか。」

Devant は、プロのマジシャンであれば誰もが心得ている重要な点を示していたのです。カードトリックを観客に楽しんでもらえる形で演じるためには、仕組みを知っているだけでは不十分であり、それをいかに演じるかを理解していなければなりません。この両者のあいだには大きな隔たりがあります。

その違いは、同じトリックを初心者と熟練したカードマジシャンが演じる様子を見比べれば明らかです。初心者は数多くのトリックの「方法」を知っていても、それらを真に巧みに演じることはできません。一方、プロは扱うトリックの数こそ多くはありませんが、それぞれをどのように提示すれば観客に最大の印象を与えられるかを熟知しています。

「トリックの秘密を知っていること」と「そのトリックを演じること」は、まったく別の能力です。この点はいくら強調しても強調しすぎることはありません。たとえ数百の秘密を知っていたとしても、それらを滑らかで魅力的に演じられなければ、大きな価値を持ちません。むしろ、優雅さと確かな技術をもって効果的に演じられるトリックを、いくつか確実に身につけているほうが、はるかに優れているのです。

本書の目的は、いつでも、どこでも、いかなる状況や観客の前でも、そしてどのような1組のカードを用いても演じることのできるカードマジックを身につけていただくことにあります。トリック専用のデックや特別なカード、高価な道具は一切必要ありません。これはきわめて重要な点です。なぜなら、場所を選ばず、演技を求められたときに1組のカードを借りるだけで、人を楽しませ、興味を引くことができるようになるからです。その能力は、まさにあなたの指先に宿ることになります。

優れたカードマジシャンになっていただくため、本書では技法を段階的に紹介しています。各章では新しいスライト、あるいは原理を1つ取り上げ、続くトリックではその技法と、それまでに学んだもののみを使用しています。各章に収められたすべてのトリックを完全に習得してから次へ進む必要はありませんが、少なくとも2つを選び、先へ進む前に、滑らかで楽しく演じられる水準にまで高めてください。

本書に収められているトリックは、いずれも細心の注意を払って選定されています。正しく演じられれば、どれも非常に効果的なものばかりです。もし思うように観客の反応が得られない場合は、トリックそのものではなく、演技や理解のどこかに改善の余地があると考え、さらに研究を重ねてください。

カードマジックの王道(The Royal Road to Card Magic)を歩むためには、他のあらゆる芸術と同様に、まず基礎原理から学び、それを確実に身につけなければなりません。幸いにも、カードマジックの研究はきわめて楽しく、魅力に満ちた営みです。そのため学習者は、つい先を急ぎ、遠くに見える(しかも疑いなく青々とした)牧草地へ駆け出したくなるものです。その気持ちは理解できます。しかし本書では、ウサギではなくカメを見習うことを勧めます。

各章で与えられた内容を丁寧に学び、確実に身につけてから次へ進む――いわば「急がば回れ」を実践することによって、最終的には、はるかに優れたカードマジシャンへと成長できるはずです。

本書で示した学習プランに従って進めば、実用的なスライトやサトルティを習得できるだけでなく、観る者を驚かせ、楽しませる優れたカードトリックを同時にレパートリーへ加えていくことができます。さらに重要なのは、第1章を修めた時点で、すぐにスライト・オブ・ハンドによる演技を始められる点です。観客を前にした実践的な経験を通じて、トリックを最大限に効果的に見せるための提示の方法を、早い段階から体得することができるでしょう。

また、各章には「セルフワーキング」、すなわち演者の高度な技術をほとんど必要としないエフェクトも収録しています。これらは、テクニックそのものに気を取られることなく、トリックの効果を最大限に引き出すために、演技や振る舞いへ意識を集中させる好機となるでしょう。

ここで改めて強調しておきたいのは、カードトリックを「行う」ことと「演じる」ことのあいだには、大きな隔たりがあるという点です。カードのスライト・オブ・ハンドを披露する第一の目的は、観客を楽しませることにあります。したがって、技術的に完璧であるだけでは十分とは言えません。

トリックの基本となるプロットを軸に、観客の注意を引きつける心地よい語りを織り込むことで、演技はより楽しく、より興味深いものになります。本書では多くのトリックにおいて、演出例として「トーク」、すなわち「パター」の例を示しています。ただし、パターは本来、演者自身の個性に即したものであるべきです。明るく快活な性格であれば陽気で軽妙な語りが適しているでしょうし、落ち着いた性格であれば事実に即した穏やかな語りがふさわしいでしょう。ここに掲げたパターは、トリックという骨組みに言葉と動きを与え、印象的な演出へと仕上げるための一例として理解してください。

「真の芸術とは自然を映す鏡である」と言われますが、この言葉はカードマジックにも深く当てはまります。動作、話し方、態度のすべてにおける自然さこそが、この芸術の本質です。

カードマジックの流派の中には、動作の速さによって高度な技量を誇示し、観客に強い印象を与えようとするものもあります。しかし本書では、そのような技巧の誇示に偏ったカードワークではなく、常に自然で、落ち着きのある、優雅なカードさばきを目指すことを勧めます。

良いカードマジックを演じるためには、常に心に留めておくべき一般的な原則があります。

これから何を行うのかを、事前に説明してはなりません。あらかじめ結果を示してしまえば、観客は方法を推測しようとします。必要な秘密の準備をすべて整え、クライマックスの瞬間に至って初めて、明らかにすべきです。

同じトリックを繰り返してはなりません。ただし、まったく異なる方法によって同一のエフェクトを再現できる場合は例外とします。

トリックの秘密を明かしてはなりません。多くの優れたカードトリックは、実際にはきわめてシンプルな原理に基づいています。その方法を明かすことは、観客があなたに抱いていた評価――すなわち高度な技術を備えているという印象――を、自ら損なうことにほかなりません。

重要なスライトやサトルティを隠すためには、ミスディレクションを活用しなければなりません。

ミスディレクションとは、スライトやサトルティを行う瞬間に、観客の注意を別の方向へ向ける技法を指します。たとえば演技中に「パス」と呼ばれるスライトを用いる必要がある場合、誰かに声をかけてその人に視線を向けるだけで、観客の目は自然にその人物へと移ります。あるいは近くの物を取ってもらうよう頼めば、一瞬ではありますが視線はその物へ集まります。その瞬間に秘密の操作を行うのです。また、観客の一人に手元のカードを他の人々に見せてもらえば、皆がそのカードに注目しているあいだに、必要なスライトを済ませることができます。

それぞれのトリックについて、使用するパターはあらかじめ決めておくべきです。

パターは観客を楽しませるだけでなく、秘密の操作を隠す役割も果たします。人は話の内容を理解するために一定の注意を向けるため、その分、演者の細かな動作を分析する余裕が失われるのです。

最後に触れておきたいのは、本書にはセカンド・ディールやボトム・ディールといった、より高度で難解なカードスライトをあえて収録していないという点です。これらの技法は、いずれにせよ、ごく限られた一流のカードエキスパートのみが見事に扱いうるものです。

本書に収めた内容をすべて習得した後であれば、必要に応じて『Expert Card Technique』などの文献へ進み、これらのスライトを学ぶのもよいでしょう。しかし当面は、カードマジックの学習を本書に限定し、ここに示した優れたトリックを「どのように行うか」だけでなく、「どのように演じるか」まで確実に身につけることを勧めます。

さて、前置きはこれくらいにしておきましょう。あなたはすでに、この先に待つ内容へと心を躍らせているはずです。ここで筆を置き、あなたがカードマジックの王道を歩み始めるのを静かに見送りたいと思います。

どうぞ――「良い旅を(Bon Voyage!)」。

Jean Hugard
Frederick Braue

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