所感:「マルチプリシティ by マックス・メイビン」
マルチプリシティ by マックス・メイビンとは?
メンタルマジックの大御所Max Maven氏(マックス・メイビン)のDVDで、スクリプト・マヌーヴァ社から日本語字幕版も出ている。
内容は「マジシャンズ・チョイス」に焦点を当てたもので、徹底的にこの原理を応用するためのノウハウが詰め込まれたDVD。
初心者から玄人まで、幅広く役に立つ内容になっている。
所感
- 聞き手にユージン・バーガー氏
イントロダクション
このDVDで何をするのかの簡単な紹介だが、マジックにのめり込んでいると忘れがちになる「大事なこと」を語っているので少し気に止めておくといいんじゃないかな?
ハンドアウト
観客の左手をテーブルの上に置いてもらった後に2つの紙袋のうち片方を選んでもらい、左手の上で開封すると羽が1枚落ちてくる。
選ばれなかった方を開封すると、レンガのブロックが落ちてくる。
開始一発目ということで軽くジャブ代わりにトリックの実演が入ってくる。
ユージン・バーガー氏の「アッシュ・オン・ザ・パーム」を元にしたトリック。
このトリックの秘密についてはエンディングで。
ゼン・アーチェリー理論
マジシャンズ・チョイスについての、マックス氏の基本的な考え方について。
書籍「バーバル・コントロール」の中でマジシャンズ・チョイスについて語ったが、読み手に正しく伝わっていなかったことを挙げ、本当に言いたかったことについて改めて述べている。
日本語でも読めるので、お持ちの方は比べてみたらどうでしょう?
実用例
ここからはしばらく、これまで解説したマジシャンズ・チョイスを使ったトリックの実演になる。
細かな解説はないが、見れば分かる内容である。
簡単に現象だけ記載。
エキストラ・クレジット
5枚のカード(クレジットカード、マイレージ・カード、免許証等)の中から1枚選んでハサミで切ったカードだけが期限切れのカード。
セントシティブ
5枚の小銭の中から選んだ1枚と、袋に入れてあったジャンボコインの製造年が同じ。
スーツケース
トランプの4種のマークが描かれたコースターの中から観客が「ハート」を選ぶと、予言として置いてあったスーツケースの中から血の滴る心臓のおもちゃが出てくる。
ハーモニー
いわゆるバンクナイト。
封筒から1つ選んでもらい、残りの封筒にはお金が入っているが、選んだ封筒だけ偽札が入っている。
シーズンズ・グリーティング
四季が書かれたコースターから1つ選んでもらい、謎の容れ物を開けると予言のアイテムが入っている。
ダジャレである。
プール・オブ・ナレッジ
複数の玉が入った袋の中から観客が掴みだした玉の色と、演者がずっと左手に握っていた玉の色が一致する。
オフ・ザ・カフ
観客の両手に手錠をかけ、5つの鍵の中から選んだ鍵で解錠される。
ちょっとここでされている「エスケープアーティスト」のジョーク好き。
ペインタグラム
有名な絵画が描かれた絵葉書から1枚選ぶと、袋の中の予言と一致する。
これもダジャレ。
ハロー・キティ
マックス氏の飼っている猫の名前の意味を、6枚のカードの中から選んで当ててもらう。
ウォッチマン
4枚の紙から1つ選ぶと、書いてある時刻と置いてあった懐中時計の時間が一致している。
チューンアップ
紙に観客が言った童謡を書き付け混ぜた後に1枚選ぶと、その童謡がミニボイスレコーダーから再生される。
イヤリング・オブ・トゥルース
5つのイヤリングの中から選んだがものが、演者の耳に付いてる。
スイート&ノウ
4種のシュガーパックの中から選んだものが予言されている。
フラグメント
4つの国旗の中から選んだものが予言されている。
これもダジャレ。人気映画のタイトルと引っ掛けてる。
置き方とハイエンド・ギャビット理論
マジシャンズ・チョイスを行うときの選んで欲しいカードを「選びやすい位置に置くこと」についての話と、2択になったときに使えるサトルティの話。
前者は、マジシャンにとって都合の良い選択がされる可能性を引き上げるのに有効、後者はクライマックスを劇的にするためにも知っておきたい考え方である。
演技&解説
ここからはマジシャンズ・チョイスだけでなく、他の色々な要素も組み合わせたトリックになっていく。
ネオメトリック
2つの予言を用意し、観客の選ぶ「図形」と「コイン」を当てる。
氏が過去に発表したジオメトリックコインの改案(書籍『PRISM』収録)。
ダイ・ヴァーノン氏が子供の頃、マルチプルアウトの原理をはじめて知った出来事についての話あり。歴史関係の話が好きな人はこの辺も気になりそう。
コインテキスト
選ばれるコインが予言されている。
マルセロ・トルッツィ氏のヘッドアップが元ネタ。
みんな知ってるけど、使い方があまり思いつかないギミックを使う。
トリック自体だけでなく、予言の書き方にまつわる小さなコツも参考になる。
フューチャー・テンス
ESPカード5枚の中から1枚、トランプの中から1枚ずつ選んでそれぞれの結果を予言。
ESPカードで行われているフォースも、トランプで行われているフォースもどちらも興味深い。
ESPの方は「説明できないトリック」を彷彿とさせるもので、特定の状況下では非常に有効(アレンジメント・フォースという名称でいいのかな?)。
トランプでフォースする方法については2つの方法が解説されており、1つ目の準備が必要な方はフォーシングデックを自然に且つ効果的に改めるサトルティが、2つ目の即席で出来る手法では、マックス氏のクロスカット・フォースのやり方が解説される。
どちらも細かな工夫が効いてます。
また、トランプの裏に付けるマーキングの方法が一つ解説されてました。
ノーマル・メーラー
郵便局は不思議だ。郵便物が送りたい場所へ正確に届く。という演出を使った予言。
これも原理を複数組み合わせているのだが、氏の工夫が中々に効いている。
見る度に「これは好きじゃないなぁ」と思っていた古典的な方法があるのだが、ここでのやり方だと「ああー、これだと違和感がないっ!」って思えました。
これはいいですね、やりたい。あと、よく見ると封筒に貼ってある切手がフーディーニ。
スモール・フォーチュン
DVD視聴者へ向けてのマジック(選択肢が出るので押して選ぶ)。
4枚のエースの中から、ひとつマークを選んでもらうが予言されている。
原理的にはよく知られたもの。
言ってしまえばマルチプルアウトなのだが、マルチプルアウトの手順を考える上でのマックス氏のこだわりや重要視していることについての話が聞ける。
手品とは直接関係はないが、操作をスムーズにするために封筒に施している工夫なんかは聞いておくといいんじゃないかな。
カードを印刷して作る方法についての話もあり、これ作って欲しいとマックス氏にお願いするユージン・バーガー氏が可愛い。
リープ・オブ・フェイク
PVでも演じているトリック。
観客のポケットの中に入れたカードが移動する。
ここでは観客の選択によって、選ばれると現象が起こせないケースがあるのだが、氏はアウトを用意しておらず(一応紹介はしている)、その理由についての話と、実際選ばれてしまったときの対処が興味深かった。
「アウトの準備」と「観客から借りた物で行うこと」に関しての話なのだが、詳しくは実際に見て欲しい。
日本の有名なマジシャンが「演出なんかをしっかりすれば。道具に対して仕掛け等の疑問は持たれない」と言っていたのだが、非手品人曰く「空気読んで言わないだけ、何勘違いしてるの?普通のトランプと言われようがマジシャンの言うことなんて信じてない」と言われた事を思い出す。
この辺を考えると、マックス氏の考え方が観客に寄り添っているなぁと強く思いました。
シュレディンガーのスロットマシーン
スロット・マシーンによく出てくる果物が描かれた8枚のカードを使ったトリック。
観客が作ったペアだけが同じ果物同士になっている。
ここで使われているカード、売ってませんねぇ・・・。
もし手に入ったら、3枚1組で使いたい気がしました。スロットですし。
ロッカー
パンチで穴を開けた4枚のキングから1枚選んでもらい穴に南京錠を通す。
ナプキンで隠した状態にし、観客の選んだキングだけをひっくり返す。
色々と興味深いことが多かった。
4枚のキングの中から観客が選んだら、残りの3枚も渡して混ぜてもらうのだが、どのカードが選ばれたのか特定出来る。
おそらく書籍とかに出てきたら「ふーーん」くらいでスルーしてしまう気がする。
実演で上手いこと使われてるといいなーやっぱりと思うなど。
アウトを用意していないケースに対する対応の仕方も参考になりますね。
南京錠と書いてるが、カードリングなんかでもOK。
ナンバー・オブ・ザ・リースト
4枚の「6」のカードの内、観客が選ぶカードが予言されている。
ベストパターンのみ大きく現象が変わる。
別に演技映像が収録されてます。
「6」である理由は氏の演技を見てくだされ。
エンディング
このDVDの総括の後、2択のエンディングっぽいマジックを行って〆。
と見せかけて、ユージン氏の「あのレンガのアウトは?」という言葉を受けて秘密が明かされる。
最後に
ちなみに収録時間は3時間超えています。
マジシャンズ・チョイスは初心者向けの技法・・・と呼ばれてはいるようですが、このDVDの内容を観ると「これを初心者向けの技法」と言い張るにはちょっと無理があるんでは?というくらいに深い内容でした。
実際に目にすると「あーマジシャンズ・チョイスかー」となってしまう演技の人が多かったのですが、マックス氏くらいになるとそれはもう見事に引っかかりました。
こういう、大抵の人が疎かにしている部分(自戒も込めて)を見直して、演技を根底から考え直すとかどうでしょうか?わたしはそうしようかと思います。
忘れてましたが、マックス氏だけあって歴史的な背景なんかもガッツリ説明してくれるので、教わるならばこういった人からにしておいたほうが後々助かりますね。