所感:南部信昭作品集 vol.1 by 南部信昭 & 野島伸幸
それはなんぞや?
著者は野島氏ということらしいです。初出はマジックマーケット2015だったりします。
MAJIONさんの紹介ページを見てもらえれば分かるけど、現象の説明がすべて2種類書いてあって、解釈Aがマジシャン視点で見た現象、解釈Bが観客が感じることになる現象みたいなノリ。
この作品集は「珍作」(マジシャン相手にしか通用しない作品)という位置づけになっているそうだけど、演じる際の設定・台詞・世界観が無駄にしっかり考えられており、手品を見慣れていないお客さんにも一周回って逆に「一応」演じれる作品になってました。
まぁただその半面というか、演出がしっかりしているけど現象が複雑なせいで、生半可な演技力・トーク力・コミュニケーション力の人が演じたら、バーでたまたま横に居たおっさんがなんか淡々とボソボソ言いながらクソつまらねぇ手品見せてきた・・・の究極系みたいな印象を残すだろうなってのはあると思いました。
まともに演じられるのなら、ある種名人芸の域に達してるのではないかなと。
独特な語り口調、人を引き込むトーク力なんかに自身のある人は、読んだら楽しいだけじゃなく実践で使えると思います。
カメラの前でかっこよく演じるスタイルの人は、知識欲だけ満たして回れ右して帰ればいいよ。どうせ演じないよ。
難易度的にはそこまで難しくない(カード中級者くらいなら)し、技法の置き換えなんかの余地も残ってるので、ここまでの文章を読んで興味があったら読んでみると良いと思うな。
あと、作品毎の終わりにあるあとがきから、無駄に素晴らしい知性が溢れているのもポイント高い。
リプレイ
いわゆるマキシ・ツイスト。
マジシャンの無限ループを観客が止める。とかいうよく分からない解釈が書いてるけど、明らかに矛盾のある状況を無限ループという状況設定をすることで違和感なく構成してるのがすごい。才能の無駄遣い。
クライマックスはフェアに示せるのだけど、最後に多少適当な動きがあるので気になる人は自分で考えるなり何なり。
「マキシ・ツイスト」としてだけみると、薄味なのでそこのとこ注意。よく考えるとツイストしてたかどうかも怪しい。
パラドックス系のエフェクト(サインド・カードとかビトウィーン・ユア・ザ・パームとか)と組み合わせるとか面白いかもしれませんね。
素数は素敵
コレクターズ現象を限界までやってみました。
4Aで3枚のカードをサンドイッチして当てた後、無理やり続きを作ったらどうなるか、その答えがこれかも。デックを(一応)全部使い切る且つ、ちゃんと手品してる(サム・ザ・ベルホップdis)のはインターナショナル・カードトリック以来かもしれない。
案の定、演技前のセッティングが面倒で覚えづらいのと、何も考えずに書いてある演出通り喋ると、話し相手が同じ趣味だったときに早口になるオタクみたいになるのは間違いないので、指先のテクニックとは別方向で難しい。演じてる本人が難しくないと思っていても、見ている側からするときっと厳しい。そういう難しさがある。
デックスイッチして、クローザーやアンコールとかで使うのが良いのかなぁ。
ちなみに素数の演出は手順作った後、後付で考えたものだそうですが、手順全体の文脈を整えていく能力すごいですよね。
カントールの名言をもじった「マジックの本質はその自由性にある」は名言として残しておくべき。
消える予言
パーム・オフがパラドックスな感じに。
サインド・カードからイロジカルなとこを排除した改案がパーム・オフっていうのがわたしの認識なんですけど、そのパーム・オフをイロジカルにしたような感じというか、もやもやを観客に残す独特なトリックです。
Jeff Hinchliffeの「デジャブ」(シェーン・コバルトのpatreonであったレクチャーでやってた)や、Bebelの「Mabilion」(DVD『Bebel Vallarino INSPIRATION』)のような雰囲気のトリックを想像してもらえれば。
加えて、あとがきで読んで「あーたしかに」となったのですけど、パーム・オフ現象を2段に増やしたトリックでもあるようです。色々変な現象になってるので読むまで気づきませんでした。
2段構成にしたパーム・オフでぱっと思い出すのはTarylの「Palm off Repeat」(氏のDVD『SHIKAKU』やMAJION LIVEレクチャーに収録)や、Kohei Imadaの「Plam Off Plus」(冊子『ANIMAL TRAIL』)くらいしかないのですけど、気になる人は調べてみてください。
ちなみに2段目のパーム・オフ現象・・・というか技法なんですが、これは単独で使える技法になっていて、雑に「デックの中で1枚だけ表向きのカードがある」という状況であれば、それを元に戻す・・・けど、広げるとさっきのカードがまた表向きになっている。という状況を作れる良い技法だと思いました。
トミー・ワンダーのワンダー・リバースやラリバース(ラリバースのバリエーションという位置づけなんですけど)と並べて良い技法なんじゃないでしょうか。
トライアンフした後で、それを戻した後にまた同じ状況になってるって使い方も出来ますね。イロジカルな動きがあるので多用は禁物ですけど。
全体的に観ると、多少観客が凝視する環境下でギルティなムーブを行わなければいけない点が引っかかりましたけど、面白いトリックだと思いました。