1927年に刊行されたジャック・マーリン(Jack Merlin)の作品集が日本語版として刊行されました。
原題は『… and a Pack of Cards』なのですが、デックを「パック」と呼ぶこともなくなったので分かりづらいかなということで、『マーリンズ・カードトリック・トリロジー』としています。
【物理本】マーリンズ・カードトリック・トリロジー日本語版(Amazon)
【PDF版】マーリンズ・カードトリック・トリロジー日本語版(BOOTH)
【PDF版】マーリンズ・カードトリック・トリロジー日本語版(MAJION)

翻訳はわたしです
ジャック・マーリンって誰なの?
日本人マジシャンだと、ジャック・マーリンって誰ってなる人が多いと思います。
個人で出した作品集としては『… and a Pack of Cards』の1つのみです。
ですが、カードマジックの歴史的な名著である『Expert Card Technique(エキスパート・カード・テクニック)』に度々名前が登場しているマジシャンであり、この手品って原案マーリンだったんだ!となることが多いマジシャンの一人です。

私的「お前が原案だったんかい!ってなるマジシャン」第1位はステランコ。2位はマーリン
また、日本人マジシャンでマーリンのことを知っている人は、大体「マーリン・ロスト・エース」というトリックの考案者として知っているイメージで、このトリックは『Expert Card Technique』に収録されています。
本来、『… and a Pack of Cards』には「もったいない」という理由で収録されなかったそうですが(Expert Card Techniqueにそのように記述されています)、日本語版『マーリンズ・カードトリック・トリロジー』には追加で収録しておきました。
今だと、アルマンド・ルセロがマーリン・ロスト・エースのヴァリエーションを解説しているので、そちらが有名なのでしょうかね。
Paper Cuts – Volume 3 by Armando Lucero(Vanishing.inc)
Expert Card Technique 日本語版 第2巻(Amazon)

このDVD、残念ながら日本語版は1巻までしか出ていません。とても良いDVDシリーズだったのですが・・・
どんな本なの?
実は、歴史的なマジック書籍について語られるとき、名前が挙がることのある書籍なのですが、まぁ、挙がったり挙がらなかったり・・・。
というのも、歴史的内容的に申し分ないだが、致命的な誤植があり、イラストの類が一切無い。という部分がこの本が名著と呼ぶ障害になっているのではと思っていました。
そして誤植、これはマーリンが「両利き」であり、編集者がそのことを認識しない状態で修正等してしまったようで、さらに、一部の手品用語が「一般的に知られているのとは全く異なる使い方をされている」ということが重なり、解読をひどく困難にしていました。

さすがにこれを手放しで『名著』として挙げれない
内容としては、ダイ・バーノンがハリー・フーディーニを騙したことで有名なアンビシャスカードや、ワンアームド・マクドナルドと呼ばれた片腕のマジシャンで有名になったエース・アセンブリ、カードのピプスを動かして別のカードに付け替えたように見えるカードチェンジ「ムービングピプス」や、デックを半分ずつにずらして持ち、見えている2枚のフェイスを変えるダブルチェンジ等、他のマジシャンたちが有名にしたトリックの原案が載っていたりします。
そして問題なのは、後世の改案が「原案の難しい部分を変えた」という物が多く、一部においては原案のほうが遥かに良い。ものすら普通にあることでしょう。
関連記事
Jason England’s 17 Card Books to Study(Lybrary.com)
McDonald’s Aces(Vanishing.inc)
でも分かりづらいんでしょう?
新規にイラストを200枚追加しました!
また、間違っている用語等はすべて現代基準に合わせて直しました。古い本の用語を「修正」するのはあまり好きではなかったのですが、「こういった理由でこれはこう変えてるよ」って併記する形にしましたです。

めっちゃ頑張った
あと無駄に原著リスペクトした部分
この本は
- 第1部「マーリンズ・マスター・マニピュレーション」
- 第2部「マーリン・アット・ザ・カードテーブル」
- 第3部「マーリンズ・マスター・ミラクル」
という3部構成になっているのですが、原著は単独で購入することが出来、まとめて購入すると送料分お得やで?みたいな売り方をされていたそうで、無駄にそこもリスペクトしました。分冊版も無駄に作りました。
もし、ここだけでいい、や試しにここだけ、と思う人が入れば試しにどうぞ(*゚ー゚)
第1部「マーリンズ・マスター・マニピュレーション」(物理版 / PDF版)
第2部「マーリン・アット・ザ・カードテーブル」(物理版 / PDF版)
第3部「マーリンズ・マスター・ミラクル」(物理版 / PDF版)
読んでいて印象に残った部分
第1部『MERLIN’S MASTER MANIPULATIONS』で印象に残ったの
改良型ハーマン・パス
デックをひっくり返す動きで行うパス。ハーマン・パスとルポールのインビジブルターンオーバーパスの中間くらいでしょうか。ここでいう改良点はテクニック面というよりも台詞回しをこうすることで観客の意識を有効に惹きつけることが出来る、とかそういう方向性。
ちなみに「パス」という言葉を、パスそのもの以外にも「コントロール」を指す意味で使っていたため、状況次第で訳出しを変えたりしました。
アウトジョグ・コントロール
一番苦労したかもしれないもの。ヘイモウ・シャッフルのポジションで。と解説されているのですが、全く動きが再現できず困ったスライト。ベアニキのところで「ヘイモウ・シャッフル」や「オーバーハンド・シャッフル」のようなシャッフルをまとめて「ヘイモウ・シャッフル」と呼んでいた時期があるようだ。という一文と参考に挙げられていたのが本書であった。ありがとうベアニキ。
単純にオーバーハンド・シャッフルを使ったコントロールですが、一般的なシャッフル→カットという流れでコントロールするのではなく、シャッフルの動きのみでトップへ持ってくるというコンセプトです。
サイド・スライド・パームとフレッシュ・グリップ
エキスパート・カード・テクニックあたりの時代にサイドスチールへと進化する前段階のスライト。エキスパート・カード・テクニックには書いてありましたが、元はスペクテイターピークから連続させて引き抜くスライトだったのです。エキスパート・カード・テクニックには「上手い人がやると本当に分からないが、大体の人は割れ目が出来て全く使えないスライト」のように書かれていましたが、マーリンは「こういう風にしたくなると思うがそれをすると割れ目が目立って使い物にならない」と書いておりました。
チップオーバー・チェンジとコントロール
よくお世話になるチップオーバーチェンジ。ブレイクを親指でして丸見えだなーって人をよく見かけますが、マーリンのはとても有用です。私がやってるのと同じですね。これからはマーリンのスライトって言います(*゚ー゚)
マーリン・リフル・シャッフル
サイド同士を噛み合わせるシャッフル。ダローさんのエンサイクロペディアカードスライツで見たのが最初でした。私は諸々のリフルシャッフルを標準的なもので覚えてしまったので、わざわざマーリンシャッフルに乗り換えるメリットは感じませんが、本家の解説が気になる人はどうぞ。
Encyclopedia of Card Sleights – Volume 3 by Daryl
レース・スルー・フォールス・シャッフル
噛み合わせて抜くタイプのフォールス・シャッフルを「レース・スルー・シャッフル」と呼んでいたそうです。プルスルーとかアウトとかプッシュスルーとかアウトとか、まともに理解せずに言ってる人も多いのでみんなこの呼び方すればいいよ。って思いました。ここの解説はシャッフル自体ではなく、最後の引き抜く動作を自然に見せるための工夫です。
投げたカードを指定の枚数目でキャッチする
1枚カードを投げて、落ちてきたらデックの間に挟んでキャッチ。数えると指定された枚数目というトリック。
力技ウェーイ。
スリップ・スライド・チェンジ
いわゆるアードネスチェンジ。エキスパート・アット・ザ・カードテーブルに収録されているものとの変更点は未確認。
チェンジ・オーバー・パーム・チェンジ
カラーチェンジの前に「こっちの手のひら?何持ってませんよ?」って見せてからチェンジするあれ。
ダブル・チェンジ
リチャード・ハッコーのDVD『リプレイ』とかであったように、デックを半分ほどずらして保持した状態で見えている2枚のカードをチェンジさせるというスライト。100年前からあったんかい。
Replay by Richard Hucko and The Blue Crown(penguin magic)
アードネス・ボトム・パーム
この手のパームは結局この辺りに落ち着くと思うけど、きちんとしたやり方を知ってる人は少ないらしい。種明かし連中が馬鹿の一つ覚えのようにDPSしかしないからか?
アンダー・ザ・サム・チェンジ
カラーチェンジのときに、親指がフェイスに乗ってると不思議だよねってやつ。
フェイス・トゥ・フェイス・チェンジ
スリーブエースなんかで行われるあのチェンジ。
パームしたカードを消すチェンジ
手で覆うとカードが変わるんだ~手に隠しとっただけなんだけどね。というギャグからの「でもこれで手に隠しとったカードも消えたら不思議でしょう?」とカラーチェンジをしつつ隠し持っていると思わせていたカードも消えているというチェンジ。キャラクターに合えばめっちゃ良さそう。
フォース
クラシックフォースのコツの解説。この時代はまだ、フォースといえばクラシックフォースの時代らしい。一応シュアファイアなものも解説されていたりするけども、そんなことを覚えるよりもクラシックフォースの練度を上げろみたいな思想を感じます。
第2部『MERLIN AT THE CARD TABLE』で印象に残ったもの
ア・ルーティン・オブ・スライツ・アット・ザ・カードテーブル
ちょっとしたカードマジックを演じて「ゲームも強いのでしょう?「好きな役を配れたりするのですか?」などと観客に言われた後に行うギャンブルデモンストレーション。
フォールス・ディールとスタッキング(積み込み)を演じてみせます。実際のセカンドディールと「普通のディールをセカンドと偽って行うディール」を組み合わせたりして翻弄する構成です。
スタッキングはオーバーハンド・シャッフルを使ったもの。エキスパート・カード・テクニックとか色々訳してる最中に再現するために練習したので私は普通に出来ますが、人によっては難しいのかもしれません。
スリー・カード・モンテ
3枚のカードにブリッジをかけて行うタイプのあれ。基本的にはエキスパート・アット・ザ・カードテーブルのものと同じですが、ちょっと詳しめ。向こうに書いてない「コツ」があるのでこちらのがわかりやすいか・・・?まぁ、バーノンのやつが一番わかりやすいとは思いますけども。
「スプレッド」をトリックとして使う
ドローポーカーで相方と2人でイカサマをしているという設定で行う、イカサマデモンストレーション。試してみたらとてもウケました。
ボトム・ランナップ
いわゆるミルクビルド・シャッフルで(観客の人数)枚数おきにカードを配置する方法。ちなみに今話題のガイ様がルーティンズでやってる方法だと、ここからさらにデックを並びを元に戻せますね。
コールド・デックの物語
前回の記事で載せたやつ。こういう読み物好き。
マスター・ポーカー・ディール
観客が指定したスートのロイヤルフラッシュを配るというトリック。
サイステビンスにこういう使い方もあったのね、となったので。
第3部『MERLIN’S MASTER MIRACLE』で印象に残ったもの
フォー・エース・アセンブリ
アセンブリと付いていますが、デックの中に戻した4Aがトップに上がってくるという、マルチプルシフトみたいな感じ。イメージは大原正樹氏のパラダイムシフトと似た感じです。
スポットを移動させたように見せる
ムービングピプスの手順。おそらくこのトリックが活字で解説されるのはこれが初めてだと思うとのこと。エキスパート・カード・テクニックにバーノンのムービングピプスが載っていますが、そこではマーリンとライプチヒの名前を挙げていましたね。
観客がカットした枚数を当てる
タイトルとおりです。昔のトリックにありがちな、図々しいけど有用な枚数の調整についての工夫や、デックより多い枚数を言ってくる空気読めない観客のあしらい方なんかがいい感じ。
スナップ・チェンジ
みんな大好きスナップ・チェンジの解説です。原案はずっとマーローだと思ってました。
チェンジのあと、一瞬だけパームに入れています。ガイ・ホリングワース氏の『ロンドンコレクション』で、ガイ様はスナップ・チェンジでパームに入れていましたが、ここからの派生なのかもしれませんね。
スリー・カード・フォースとフロア・チェンジ
そういえば名前を知らなかった、右手に持ったダブルカードをテーブルに1枚だけ投げるようにて、もう1枚はデックに処理するチェンジ。
ジェネラルカード現象のようなトリックのラストに、床に投げて観客に踏んづけておいてもらう。という用途のチェンジだったようですね、ゆえにフロア・チェンジ(*゚ー゚)
私のお気に入りのフォー・エース・トリック
いわゆるマクドナルドエーセス。
ただ、マーリン氏が英国で活動していたときに販売していたトリックらしく、1910年頃にはあった様子。マクドナルド氏よりも大分早い。
正直、マクドナルド氏の手順よりも好みである。
ヒア・ゼア・アンド・エブリウェア
バーノンがフーディーニを騙したアンビシャスカードは多分これです。
テレパシー・カード・トリック
マーリン版プリンセスカードトリック。
この原理のものでベストだと思っていたヒューガード氏の手順と同じでした。あれ、マーリン氏のか・・・。
ザ・スプレッド
一時期話題になっていた、マーリンのカード当て。
ざっくりいうと、ケース・バイ・ケースでカードを当てるとかそんなん。今でも「これは教えれない」とか言って秘伝のように伝えてるマジシャンを割と見かけます。
今度からは「そうだね、マーリンだね」って心のなかで呟くことにします。



