所感:「At the Table Live Lecture Vol.3 – (AUGUST2014) – Kostya Kimlat」
2014年8月に行われたmurphy’s magic主催のオンライン・ライブレクチャー、Kostya Kimlat(コスチャ・キムラット)回。
「ロードランナー・カル」というテクニックで有名なマジシャンですね。
氏は起業家だったりビジネスコンサルタントしてたりとそういった方面に秀でたマジシャンで、今回のライブレクチャーではトリックの解説はほぼ無く、プロマジシャン向けのセミナーといった内容です。
所感
Many Room’s in the House of Magic
マジックをマンションの部屋に例え、クロースアップやステージ、イリュージョン、メンタリズム、サーカス、マジックショップ、コンベンション、趣味、工作、営利目的、芸術等、あらゆる形でのマジックの種類・演じる状況・付き合い方を再確認する。
自分はどんな付き合い方をしたいのか、どんなものが好きなのか、それを理解してそこから先に進むための目標のイメージを明確にしよう、みたいな話。

Tesla
電気自動車で知られる自動車メーカー「テスラ」を例に出し、業界内での競争や業界全体のレベルアップについての話、マジックという業界ではどうか?マジック市場全体のレベルを底上げするにはどうすればいいのか?といった話に切り込んでいきます。
マジシャン同士高め合い、あらゆる意味でのレベルアップを期待しているっぽい。
Focus
インタラクティブなマジックをするのに大事な要素を「トリック」「マジシャン」「観客」という3つに分け、Bullseye(ダーツとかの的)の図で説明。
かなり的を得た表現だと思う(Bullseyeだけに)。
どれも大切でどれが欠けてもいけない。
以降、レストランで演じる際に最終確認に使うチェックシート、TVに出演するときのチェックシート等、複数の「チェックシート」が出てくるのだが、どれもこの3要素の考え方に基づいている。
分かりやすい。
近年「マジックで稼ぐ」という看板を掲げた人たちが大量に湧き出しているけど、ああいう人たちは基本的に、10年20年前に他業種がやってたことの焼き直しな上に、「マジック」という根っこの部分に関わるとこが腐っていて、浅いなぁと感じることが多く、世間知らずに若い子を騙すことに必死でちょっと勘弁してもらいたいと感じている。
キムラット氏の図から言えば、そういう人は中心点がすっぽり抜けてます。



演じるマジックをシチュエーション毎に決めておくような話のときに、演技時間と観客数から出来たチェックシートが出てくるんだけど、そのシートのすべての欄が埋まるようにちょっとレパートリーを考え直そうかと思いました。



Approach
レストラン等でお客さんの居るテーブルにアプローチするときのアドバイス。
かなり密に色々なことを言ってくれてます。



Orlando Magicって言葉が出てきて、最初はマジックショップかな?って思ったけど、これフロリダ州に本拠地を置く全米プロバスケットボールチームっすね。
マジックのチームを作り、Orlando Magicの試合を観に来る18000人の観客にどうアプローチしていったかといった話。
そしてその経験をレストランマジックという場に活かしていったんだ、という話がされる。レストラン関係の話が今回のライブレクチャーのメインになりますね。
以下のサイトがそのマジックチーム「SeeMagicLive」のオフィシャルサイト。
Warning
ライターのラベルを剥がして火で炙ると、一瞬でラベルが剥がす前に戻る。
ビジュアルでクイッキーなトリック。
いいですねー。でも今でも手に入るかなぁ・・・
Magic On Live TV
自分の売り込み方やテレビに出演するときの注意点について。
どのようなトリックが適しているか?もあるが、それよりも実際に出演した経験がないとわからない注意点とかそういうの。
この辺は女優さんとか芸人さんなんかが詳しそうだなーと思いました。
ここでもチェックシートが出てきて、上手くまとまっていると思いました。
他にもブランディングについての話や他業界のプロにきちんと頼れなど。
Restaurant
レストランでマジックを演じる上でのアドバイス。この辺りの話が今回のレクチャーのメイン。
料金・契約についてのあまり聞く機会のない話や、名刺の取り扱い方(日本だとこうやるみたいに言ってた)、若い頃の自分にアドバイスするならば?レストラン側から視点でマジシャンを雇うことの利益に関する話等色々濃い。
キムラット氏は仕事をするにあたって、全国から集めたマジシャンに対してセミナーを行っているそうな。マジックを教えるとかではなく、新社会人向けのマナー研修みたいなやつ。



日本のマジック関連の組織でこの辺りの教育をしっかりやっているとこはかなり少数だったと思います。こういうのが浸透してないからアホみたいなマジシャンが増えるんでしょうかね。
また、レストランを運営することがどういうことか?マジシャンはそこもきちんと理解していなければならない、ということを言っている。ぐう正論である。
レストランのある地域の人口の調査や、マジック以外のエンタメで競合するものは何か、マジシャンを雇用することで期待することは何かとかそういう話。
このあたりの話はレストランに限らず、居酒屋やバーのような場所でもまったく同じことが言えますねと。
氏はRestaurantMagicBusinessという団体も立ち上げていて、そこのブログにも興味深い記事がたくさんあるようなので興味のある人はどうぞ
Frixion
手紙をライターで炙ると文字が消え「MAGIC」という単語だけが残る。
口頭での説明オンリーになります。知らない人は、覚えておくと便利っす。
Who Killed The King
誰がキングを殺したのか?というセルフワーキングトリック。
噺家がやったら受けそうですね。
解説はありませんが、マジシャンなら観たら分かるかなーと。
Stage Magic
ステージマジックについてのあれやこれ。
ここも注意点とかショーの構成についてとかそういった内容。
チェックシートも健在。
最後に
全編英語です。聞き取れない人は諦めてください。
日本でもMagicの理論書がたくさん出ていますが、その中の一つである『レストラン・マジシャンズ・ガイドブック』で語られている内容に近いです。
『レストラン・マジシャンズ・ガイドブック』の内容からマジックそのものに関する記載を減らし、レストランの経営者からの視点やTV出演・ステージマジックのような少し大規模な仕事に関するマネージメントにも深く手を伸ばした感じ、といったらなんとく伝わるだろうか?わたしはそのように感じた。
このようなレクチャーをする人は、どうもトリックそのものは疎かにしてしまう人がいるように感じるのだが、話している内容を聞く限り氏は異なり、「トリックも大事だがその辺りは他のマジシャンに任せて、今回はそれ以外の部分を話させてもらう」というスタンスのようだ。
手品は適当でも金は稼げる。とか言い始めたらDisc叩き割るところだった。
さすがに世界で活躍してるマジシャンはそんなことはないようで一安心。
内容は素晴らしいのだが、やはり英語をひたすら聞いてるだけは辛い人が多いと思う。
さっきも名前を挙げたのだが、邦訳版が刊行されている『レストラン・マジシャンズ・ガイドブック』が内容的には近く、興味がある人はそちらに手を出すのがいいんじゃないかーと思いました。