- 発端
- ダイアリー・トリックとは
- 今回作成したダイアリー・トリック用ハンドブックについて
- 歴史やリファレンス
- 調べた手順についての感想
- Fate’s Datebook / Alex Elmsley
- The Telepathic Diary / Robert Cassidy
- THE ULTIMATE MIND TRIP / Robert Cassidy
- Another Birthday / Philip T. Goldstein
- The Diary of Delusion / Peter Duffie
- The Birthday Book / Michael Close
- Birthday Cards / Barrie Richardson
- Psychic Birthday Predictor / Michael Powers
- Centrifugal Diary / Peter Duffie
- Have a date / Aldo Colombini
発端
ちょっと前に知人がヒガー氏の「グレちゃうよ」を演じているのを見て、「あ、昔自分も別手順で演じてたな〜」と思い出しました。そこから「そういえばエルムズレイの手順ってちゃんと知らないな……」と思いが巡り、手持ちの資料を色々と調べ直すことに。
どうせなら自分用の手帳も作りたいけれど、手書きで1冊ずつ作るのはめちゃくちゃ面倒。……ならいっそ、きちんとした本にして出版するか!と思い立ち、そのまま実行に移しました。今回はその総括です。
ダイアリー・トリックとは
ちなみに、ここで言う「ダイアリー・トリック(Diary Trick)」とは、1年分の日付とカード名が書かれたスケジュール帳を使い、観客の誕生日に書かれたカードと、観客が選んだカードが一致する……という現象のマジックです。
Paul GordonのDiary Trickの実演映像を貼っておきます。バリエーションによって仕組みは異なりますが、全体の雰囲気は掴んでもらえるかなと思います。
The Gordon Diary Trick Complete Package(Vanishing.inc)
今回作成したダイアリー・トリック用ハンドブックについて
今回わたしが制作・出版したダイアリー・トリック用の手帳は、1年分の誕生花と花言葉が書かれたハンドブック(見開き1週間/7日分)の形態をとっています。


このトリックは基本的に、演者が何かしら「記憶」する必要があるのですが、暗記の手間を完全に排除できるよう、裏表紙のデザインの中にこっそりカンペを仕込んでおきました。
用具自体はAmazonで購入可能です。取扱説明書はこの手帳内(著者プロフィールの欄)にも簡易的に載せていますが、きちんとした解説PDFはBOOTHで無料ダウンロードできるようにしています。
FLORA & FORTUNE 366日の誕生花と運命を導くカード(Amazon)
ダイアリー・トリックのやり方 FLORA & FORTUNE 取扱説明書(BOOTH)
取説を無料にしたのは、ハンドブックを信じて先に買ってくれた方に、追加でお金を出させたくなかったからです。ただ、Amazonのような不特定多数が見る場所に「0円」で置くのは少し嫌だったので、BOOTHでの配布にしました。
とはいえ「Amazonしか見ていなくて取説の存在に気づいていない」という方がいる可能性もゼロではないので、その取りこぼしはいつか潰せるようにしておきたいなと。
誰でも彼でも「無料だから読んでみよう」と思われるよりは、せめて「このトリックに興味がある人」に届いてほしい、という思いもあります。
このハンドブックは「誰でも簡単にできる」という初心者向けではなく、「テクニックがあればいくらでも応用が効く」というコンセプトで作りました。仕組み自体はシンプルですが、これまで様々なマジシャンが発表してきた既存の手順にもそのまま組み込みやすくなっているので、研究し甲斐のある作りに仕上がっています。
もし面白い手順を思いついた方がいたら、ご自身の作品集に載せて発表してくれると嬉しいです。そのためにAmazonで手軽に単品購入できるようにした部分もありますからね。
歴史やリファレンス
以降は、今回改めて調べた資料のまとめです。これまでFantiaやCreatia、取扱説明書にも書いてきた内容ですが、リファレンスとしてここにまとめて置いておきます。
ダイアリー・トリックの原案としてAlex エルムズレイの手順がよく挙げられますが、エルムズレイは、手帳を使うトリックはRoy Walkerの「The Weather Test」『The Magic Wand』誌の1932年12月号(Vol. 21, No. 136, pp. 189-192)から始まったと語っています。
Roy Walkerのトリックは1年分の天気を記録した「お天気帳」を使い、言われた日付の天気を当てる「記憶術」としてのトリックだったそうです。その後、 Tom Sellersが日付の横にカードのハンド(その日にしたゲームの手役をメモしている、という設定でしょうか?未確認です)を書いたバリエーション、「A Memory Feat」、Vol. 24, No. 166, 1935年6月、pp. 67-68)を発表。その後、Arthur F.G. CarterがTom Sellersの「カードを書く」というアイディアを使い、かつ、記憶術ではなく予言や一致のトリックに変化させました『The Magic Wand』Vol. 42, No. 238, 1953年6月、pp. 59-60 参照)。
そこから飛んで20年後、エルムズレイの友人Ted Dansonが、『New Pentagram』誌(Vol. 2, No. 1, 1970年3月、pp. 1-2)に「It’s a Date」を発表。このTedの手順に「説明できないトリック」の原理を組み合わせて考案されたのが、有名なエルムズレイの手順「FATE’S DATEBOOK」なのだそうです。
その後、Eric Mason、Simon Aronson、Bob Cassidy、John Cornelius、Peter Duffie、Paul Green、バリーリチャードソン、マイクパワーズ、マイケルクローズ、Aldo Colombiniなど、多くの人々が独自のバージョンを発表しています。
調べた手順についての感想
Fate’s Datebook / Alex Elmsley
(出典:The Collected Works of Alex Elmsley — Volume 2)
数々のダイアリー・トリックで「原案」として語られることの多い手順です。
特徴:
- デックは観客にシャッフルしてもらえる
- 日付は完全に自由に決めてもらえる
- 覚えるべきカードは11枚ほど
- 覚えなければいけない操作が多め
-
演出によって操作にしっかり正当性を持たせている
「説明できないトリック(The Trick That Cannot Be Explained)」の原理が根幹にあるため、覚えるべきことが多く難易度は高めです。しかし、必要な操作には演出上の必然性が形作られており、流れが非常に自然です。 こんなに「操作」が「演出」で見事にカバーされているのは、ルーク・ジャーメイの『GAME』くらいじゃないかと思うほどです。
途中でスペリングを使う場面もありますが、日本語で演じる場合でもそこまで問題にならない範囲に収まると思います。
The Telepathic Diary / Robert Cassidy
(出典:Pseudo-Mentally Yours)
ロバートの愛称が「ボブ」であることにどうしても慣れない……というのはさておき、ボブ・キャシディの手順です。
現象: 観客に誕生日を聞き、日記手帳のその日付を開いてもらいます。演者が1枚の封筒を取り出し、日付の場所に書かれているカードを見ると、封筒に入っているカードと見事に一致しています。
特徴:
- デックを使わない
- 日付は自由に選んでもらう
- 考案者は当てる前にコールド・リーディング的な演出をする
非常に興味深い手順です。なお、氏本人による改案(次項)も存在します。
THE ULTIMATE MIND TRIP / Robert Cassidy
(出典:Strange Impressions)
上記「The Telepathic Diary」の改案です。
現象: 国とランドマークが書かれた日記手帳を観客に渡し、自身の誕生日の欄を見てもらいます。演者はイメージから観客が見ているランドマークを当てていき、最終的に「実はショーの前から予言しているものがある」と1枚の封筒を掲げます。観客に「誕生日とそこに書かれていた国」を言ってもらい、封筒を開けると見事に的中した予言が入っています。
特徴:
- デックを使わない
- 日付は自由
- 当てるのは日付の場所に書かれた「国」
- 観客に日付を開示してもらうのは、封筒を開ける直前
基本的な構造は原案と同じですが、当てる内容を「国」にすることで、「観客が日付を口にする前から、演者は何が選ばれているか分かっている」という空気感を演出できるようになっています。
Another Birthday / Philip T. Goldstein
(出典:Notions / A Transatlantic Lecture)
マックス・メイビンが、「フィル」名義で活動していた頃の作品です。
現象: 観客に誕生日を尋ね、その日数の分だけデックからカードを配ります。出てきたカードが、あらかじめ用意したバースデーカードの予言と一致しています。
特徴:
- 手帳は使わない
- 日付は「カードを配る枚数」を決めるためだけに使う
- デックはギミック
正直あまりダイアリー・トリック感はなく、「ただの予言マジックのバリエーション」と言えなくもありませんが、せっかく調べたので一応載せておきます。
The Diary of Delusion / Peter Duffie
現象: 観客にカードを選んでもらい、1枚目の数値を「月」、2枚目のカードと1枚目の合計を「日」にして日付を決めます。さらに、選ばれた2枚の数値とマークを組み合わせて1枚のカードを決定。日記手帳のその日付を見てみると、組み合わせて作ったカードが書かれています。
特徴:
- 日付はカードを使って決める
- デックにセットが必要
非常に簡単で誰でもすぐにできますが、個人的には「日付の選び方がカード依存」なので、あまり趣味には合いませんでした。
ただ、劇中で使われている「Lin Searles Turnover Force」というスライトが大きな収穫でした。動き自体は知っていたものの、使いづらくて記憶から消えていました。しかし今回のようなケースでは非常に有効だと気づけました。コレクターズなどで複数枚を選ばせる際、1枚だけフォースしたい時にテンポを落とさず使えて便利です。
The Birthday Book / Michael Close
(出典:Workers Number 5)
わたしが初めて目にしたダイアリー・トリックです。
現象: 誕生日を言ってもらったあと、カードを選んでもらうと手帳の記述と一致している……というシンプルなもの。
特徴:
-
メモライズドデックを使用
マイケル・クローズがメモライズドデックを覚えて間もない初期に演じていたトリックだそうです。それまで主流だったエルムズレイの規則性だと10枚程度で繰り返しが発生してしまいますが、1ヶ月分くらい手帳を調べられてもバレないように、アロンソン・スタックを使って組み上げたとのこと。
Birthday Cards / Barrie Richardson
(出典:Act Two)
氏の友人エリック・メイソンがダイアリー・トリックを演じた際、「自分の誕生日でカードを当ててほしい!」と観客が行列を作っていた光景に触発されて考案した手順だとか。
現象: 観客に誕生日を言ってもらい、カードを選んでもらうと手帳の日付のカードと一致します。これを何度か繰り返したあと、最後はあらかじめ予言のカードを手渡し、誕生日を聞いて手帳を確認すると、手渡していた予言と見事に一致しています。
特徴:
- 日付は自由
- 繰り返し演技が可能
- デックは観客がシャッフル可能
- ラストは予言等を先に手渡した状態で演じられる
繰り返す部分については演者の力量で色々変化させられますが、基本的には「パワー×パワー=最強」みたいなパワープレイです。
クライマックスで使われているアイディアはブルース・エリオットのものだそうで、どの日付が選ばれようと事前に用意した予言に合わせることができます。単体で使うとストレスが溜まりそうな構造ですが、事前に似た現象を繰り返していることで不都合な部分が上手くカバーされているんだな、と感じました。
Psychic Birthday Predictor / Michael Powers
(出典:Power Plays)
現象: 日記手帳を観客に渡し、誕生日を言ってもらいます。演者はワレット(財布)から1枚のカードを取り出し、手帳の日付に書かれたカードを確認すると見事に一致しています。
特徴:
- デックはシャッフル可能
- 手帳を渡した「後」に誕生日を言ってもらう
- ワレットが必要(カード・トゥ・ワレットに使えるものであれば何でもOK)
非常に取り回しの良い手順です。基本的な考え方はバリー・リチャードソンのものと同じなので(手帳の規則性的にも)、組み合わせることも可能。
こちらの手順ではデックを「演出のため」だけに使うため、観客にカードを引いてもらう必要がありません。テンポを変えたい時にとても便利です。
Centrifugal Diary / Peter Duffie
(出典:Deck Direct)
現象: デックを2つに分け、選んだパケットに含まれる絵札の枚数や選んだ色によって日付を決定。手帳のその日付に書かれているカードが予言されています。
特徴:
- デックにセットが必要
- 日付をフォースするタイプ
手帳の日付はほぼランダムで、フォースされる日付の箇所のみ固定されている構造です。
Have a date / Aldo Colombini
(出典:Hokus Pokus Vol.61 No.4 & 5)
現象: 12枚のカードをひっくり返したりカットしたりし、表と裏の枚数から日付を決定。手帳のその日付のカードが予言と一致しています。
特徴:
- 日付はカードで選ぶタイプ(数理フォース)
- 日付とカードの組み合わせは何でも良い
最終的に選ばれた日付が「5月7日」だったとして、最後まで候補に残っていた「7月5日」や「6月6日」のような「選べそうだった他の日付」を見られても、別のカードが書いてあるためしっかりケアされています。
日付に書かれているカードに合わせて予言を用意すればいいので、他のほぼ全てのダイアリー・トリックのセットと共存可能です。「このトリックのために手帳を用意する」というよりは、「手帳があればこのトリックも演じられるよ」くらいの立ち位置です。

