所感:「シグネチャー・エフェクト by マイケル・クロース」
シグネチャー・エフェクト by マイケル・クロースとは?
名人Michael Close(マイケル・クロース)氏が出した映像作品『WORKERS』と『THE POWER OF PALMING』の2作品を1本にまとめたDVDの日本語字幕版。
『WORKERS』はカード・マジック多めのクロースアップ作品集で、『THE POWER OF PALMING』はカード・マジックをする上で必須なテクニック「パーム」を覚えるための教材である。
所感『WORKERS』
ワーカーズのパートは94分くらい。
折り紙バニー(Origami Bunny)
トリックというよりも、マジックという仕事をする上での考え方。
プロであればこういったことを考えてマジックをしているという手本。
雇い主がマジシャンの仕事を評価するときに「観客から拍手」を~という話はよく聞きますが、それ以外にもわたしはこんな考えでこういうことをしていますよ、って話や観客の反応を見て演目を調整することについてなど。
Dr.ストレンジトリック(Dr. Strangetrick)
カードと紙幣を使った「カードワープ」
直接的な原案(カードと紙幣のカードワープ)はHoward Schwarzman氏の「Star Warp」だとか。初出は1990年発行の冊子「workers Number1」。映像版Workersの映像がいつ撮影されたものかちょっと分かりませんが、30年以上前に考えられたマジックにも関わらず、凄まじいクオリティ。
カードワープだけを集めた作品集が出ているくらいの人気プロットですが、この「Dr.ストレンジトリック」ほど完成されたカードワープがあったであろうか。
ハンドリングは原案の「カードワープ」に比べれば、それはもう複雑ですけど覚えない手は無いでしょう。
見た目不思議・野暮ったい操作も無く(技量による)・ストーリー設定もよく・観客のよくあるツッコミにも対応と、言うことないです。
わたしが手品をはじめた頃にもDVDで観たことがあったのですが(確かDVD『アルティメット・ワーカーズ』シリーズのどれかに収録されていた)、その頃は最後に破いたカードの復活は無くてもいいかなぁー面倒だし。なんて思っていましたが、準備するに越したことはないですね。
デメリットがあるわけでなし、もしツッコミが無かったらそのまま終わっても十分ですし。
長い年月が経っても色褪せない名作です。
リングと靴ひも(The Ring & Shoelace Routine)
消えた指輪がマジシャンの指に嵌っていたり、紐に通ったり、また指に嵌っていたりする。
古典的な手法の組み合わせだが、怪しい動きの動機づけなどがしっかり考え込まれている。
とはいえ、わたしは観客から指輪を借りるのに抵抗があるので、もしやるとしたら自分の指輪でやるか、観客がこれで何かして!って指輪を渡してきたときくらいにはなると思ったりはしました。
仮に借りた指輪で演るとしても、指輪に傷が付くようなリスクは一切ないのでまぁ、良いかなとは思っている。
ダンサーズ・アット・ジ・エンド・オブ・タイム(Dancers at the End of Time)
そしてアンダーグラウンドトランスポジション(リセットの元ネタ)からのワイルドカード現象。
セット・ギャフ・それなりのスライトが必要になるが、非常に効果的なルーティン。
単発で観ていたら、説得力に疑問を持ったかも?と後から思ったのだが、このトリックはエースを使ったトリックを前に演じており、構成の仕方そのものが上手くサトルティとして作用していたと思う。
構造を理解して、自分なりに手順を構築してみたいと思わせてくれる手順でした。
世界一安いマジッククラブ(The El Cheapo Magic Club)
よくある原理を使ったトリック。
細かい点まで整合性が取れるように考えられている。
ただ、個人的にこの原理を使ったトリックで「観客に書いてもらう」のはあまり好きではない。
なぜそんな不自由な状態での作業を観客に強いるのか、その不自然さは確実に残っているし、言わないだけで疑わしい点になっていると思っている。
ただ、他の作品と同様に考え方自体はとても良く、細部にまでこだわった作品っていうのはこうまでも違うものなのかと。
火を点けたマッチの消失方法に関する理論も非常に優秀で、たまに同じアイディアは見かけていましたが、ここでの解説を聞くとそのほとんどが雑であると言わざるをえませんでした。
また、マッチと子供についての話もとても参考になるものでした。
これには両親もにっこり。
フロッグ・プリンス(The Frog Prince)
ストーリー付きマジックの傑作。
ホワン・タマリッツ氏の「クロッシング・ザ・ゲイズ」を理解する教材としても優秀だと思う。
所感『THE POWER OF PALMING』
パワー・オブ・パーミングのパートは50分くらい。
カード・マジックを習得するにあたっての必須技法「パーム」の解説。
本では「解説」はあっても「学び方」は書いていません。習得するために段階を追って教えます。
という氏の言葉通り、注意点からコツからやりがちなミス等何から何まで一から教えてくれます。
特にパーム単体だけではなく前後の動き、リズムや流れまでも理解できるように段階を追ってきちんとやってくれます。
この辺考えないでパームのレクチャーしてしまうのは総じて駄目だと思うので、人に教える機会のある人は心に止めておいて欲しいです。
「パームを語るならこれだけは知っておけ!」ってことを一から丁寧に教えてくれる良教材。
ちなみにDVDではこの5種のパームを解説してくれている。
・The Left-Hand Diagonal Palm
・The Left-Hand Peek Steal
・The Vernon “Topping the Deck” Palm
・The Marlo “Turnover” Palm
ここで学べることをちゃんと出来ていれば、今後どんなパームを練習するにしろ、確実に良い影響が出ます。必見です。
2作品収録されていますが、トリック自体は解説されていないので注意。
パームを覚えてから何度も見返せば分からなくはないですけど、その点は覚えておきましょう。
おでこと塩瓶(The Card, the Forehead, and the Salt Shaker)
バーなどで演じるときの鉄板ネタ。
詳細な解説はなし。一応解説されたパームを駆使すれば出来なくとはないと思うが、このDVDでパームを覚えた人が観て、理解して、挑戦するにはちょっとハードルが高いような気はする。
駄目だったら、一旦別の本やDVDでパーム使った別のトリックに挑戦してから戻ってくるとかいいじゃないでしょうか?
ビュートックス?ツー・ビュートックス!(Butte Ox? Two Butte Ox!)
20枚のカードを観客に配ってもらい2つの山に分け(枚数は観客が目分量で適当に分ける)、それぞれの山を観客に持ってもらった状態から、カードが移動して枚数が変わる現象を何度か繰り返す。
これも細かな解説はなし。このDVDで学んだ内容だけでいけなくはないがやはり難しい気もする。
類似のトリックだと、大体1回移動して終わることが多いが何回も繰り返す。
不可能性は高いのだが、手法がダイレクトかつ繰り返すため、やはりというか難しい。
また、2回目以降の移動では一番最初の移動ほどの驚きはないように見えるので、一回の移動に全力をかけたほうが良いように感じました。
最後に
もしかしたら映像が古いため、手を出すのを躊躇っている人もいるかも知れないけど、間違いなく傑作のひとつ。現代のマジシャンが過去に行って無双してたんじゃ?って言われても納得出来るレベルの出来。
「WORKERS」の収録作品はどれも作り込まれており、解説を聞いたらここまで考えてるのかとため息が出ます。
気分は尊いカップリングの漫画を見たときに枕に顔をうずめて唸ってる女子高生です。
『THE POWER OF PALMING』はパームの教材としてこれ以上はちょっと思いつくものがない、そういうレベルで、自信を持ってパームが出来ない人にはちょっと観てもらいたいですね。
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