マジケ関連品所感:「Parade by 入江田翔太」
「Parade by 入江田翔太」とは?
マジックマーケット2015にて頒布され、その後にBASE SHOPで販売もされていた入江田翔太氏のカードマジック作品集。
マジックマーケット2021春で再頒布されるとのこと。
サークル名は「conlabo」である。
ちなみに氏は『かんたんなのに超ウケる! 東大式 トランプマジック』等の著書なんかで知られるマジシャン。
所感
2010年前後に流行したレナート・グリーン氏やダニ・ダオルティス氏のような計算されたカオス状態を作り出すという思想に強く影響を受けているんだろうなと感じる作品が多く興味深かった。
「Symmetry × Asymmetry」のディスプレイや、一時期流行した「1-4 × Kickback」、壮大なエニエニである「Orchestra × A.C.C.A.N.」は特に印象に残りました。
実演動画がないとイメージがわきにくい・活字での説明では無理のある部分がいくつかありましたが、レナート・グリーンやダニ・ダオルティスが好きな人・自分の演技の参考にしている人は、読むと色々得るものがある作品集なのではないかなと感じました。
以下作品ごと個別にちょろっと感想。
Symmetry × Asymmetry
スペードのA~10の山と、クラブのA~10のカードの山をマジシャンと観客がシャッフル、スペードの山の中から1枚選んでもらい裏返す。するとクラブの山の中でも同じランクのカードがひっくり返り、残りのカードを見てみるとスペードとクラブの山それぞれが共鳴するように同じ順番になっている。
準備不要で演技可能。
現象が起きる前のディスプレイは実演を見たことはないものの、活字からでもその美しさを感じ取れる、演出とムーブが噛み合ったものだと思う。
レナート・グリーン氏やダニ・ダオルティス氏のようなマジックを、カオスを維持しつつ見た目に拘ったらこうなるんだろうなってトリック。
カオスをここまで演出するかー(レナート・グリーン氏みたいだぁ)と思ったら、観客のシャッフルしたパケットの処理の仕方がダニ・ダオルティス氏並に適当だったのが面白かった(実演動画があれば良かったなぁ)。
とはいえ、上手くやればいい感じになるんだろうと感じるので始末が悪い。
現象前のディスプレイ等、参考になる部分は多いものの、この手順自体は入江田氏が演じるために調整・組まれたものであり、そのまま演じるのは負担が大きいので、気に入ったならば自分用に調整しなくてはならないだろう。
興味深い手順です。
Intuition × Chaos
デックのシャッフルは、テーブルにばら撒いてわしゃわしゃーっと観客と一緒に回すタイプの混ぜ方。
その後にデックのバラバラの位置から公明正大に出していく。
マークドになっているようにしか見えないがレギュラーである。
これもカオスを演出した面白いトリックだとは思うのだが「Symmetry × Asymmetry」と同様に、動画じゃないと伝えれない操作があるのが残念。
コラムとして、Aを見つけていく際の、マジシャンの表情・当てるリズムといった演出上の考察がされているので、類似のトリックを演じている人は参考になります。
Reverse × Technique
Aの位置を当てようとするが失敗。と見せかけてひっくり返って出現する。
「Intuition × Chaos」から連続で演じれる作品。
カオス的なものは維持しつつ、これまでの作品に比べ整理されているためかラクに感じる。
解説が間違っている箇所があり、最初に出てくる「これ間違ってね?」という部分は間違っておらず、その次のページに出てくる正しそうな部分が間違っている(初版だけだったらいいな)。
1-4 × Kickback
4枚のクイーンの間に挟んだ観客のカードが消え、デックの中から表向きに現れる。
もう一度繰り返すが、キックバックになる。
今はなきマジック配信コンテンツ「club THEOF」で解説され、2011年あたりに流行った(局所的に)トリックであり、氏を代表するトリック。
*THEOF配信時のPV
無理のない実践的な手順だと思います。
キックバック現象という観客に伝わりにくいトリックに対する考察がコラムとして載っており、氏本人は採用していないものの、「伝わり悪さを解消した案」も紹介されています。
1-4 × Box
手に持った1枚のスペードのAと、4枚のJが入れ替わります。
この作品集で唯一エキストラが必要なトリック。
現象のビジュアルさ・ハンドリングの美しさに全振りしている感があり、観客が一切関わらないトリック。
ZOOMなんかで軽く見せるのに良いトリックかなと(エキストラ使うけど)。
1枚のカードが4枚に増える際に使っているディスプレイは好き。
ダブルカードの扱いがちょろっと、本当にちょろっと出てきますが、文章ではほぼ伝わらない。
確か、川畑洋平氏のDVD『アリオス』にまったく同じ動作が解説されていたはずなので、気になった人はそちらを確認すればいいんじゃないでしょうか。
Bell × Red-Black
ヘルダー・ギマレス氏の「shaaken」を4枚同士でやった感じの作品。
ベルの音に合わせて赤と黒の配列が変わるという演出なのだが、正直意図がよく分からない。
もしかしたらオイル&ウォーター、アンチO&Wというよりも、Call to the Colorsやフォロー・ザ・リーダーのような設定なのだろうか。
特に語るような手順でもないかな。ってのが本音。
あ、枚数目に関する誤植っぽいのがありましたね( ˘•ω•˘ )
Orchestra × A.C.C.A.N.
レギュラーデックで且つ完全に即席で演技可能。
観客が混ぜたデックを、演者がほとんど触った印象を持たせずに出現(観客が配る)させることが出来る。
8人の観客がいることを想定しているが、4人以上いればとりあえず演技可能でそれよりも少ない人数だと演じにくい。
準備不要・レギュラーで演じれるエニエニの中ではかなり好きな部類。
ただ観客に手伝ってもらうために演者が色々と指示をしないといけず、観客に負担をかけがちになりそうである。
スペインのマジックを見た後の「面白かったけどなんか疲れた」っていう状態になりやすい作品ではなかろうか。
序盤にあるギルティな操作に対するタイム・ミスディレクションも効いてるし、クライマックスの演目に持ってくるにはかなり良いトリックだと思います。
あと、ダニ・ダオルティス氏が好きな人も好きなトリックかなと(原理的な意味で)。
コラムとして「マジックにおいて生まれる関係性について」ということについて考察されていますが、ちょっと賛同しにくい部分があった。それを過度にされると見てて疲れるねん・・・。